佐賀県有田町では2016年より、オランダを中心とした世界各国からアーティスト・デザイナーが集まり、滞在型創作活動を行っています。
オランダ人デザイナー、タイメン・シュメルダース /Tijmen Smeuldersもその中の一人です。
タイメンが有田に来たのは2017年の6月のはじめ―
有田は既に蒸し暑く、緑がまぶしい季節でした。
彼が滞在した家は、有田内山地区の古民家。
家の前には川が流れ、周囲をぐるりと山に囲まれた、有田らしい自然豊かな環境の中にあります。
外観は古民家ながらも、居住スペースはデザイナーがリノベーションしたもの。
梁を残した天井の空間や、キッチン周りの調度品、リビングのインテリアなど外観からは想像できないおしゃれなレジデンスです。
ここに彼は3ヶ月間滞在し、有田の人々との生活を通して、日々有田の伝統・歴史・文化を肌で感じながら創作活動を行いました。
タイメンはデザインの構想を一切持たずに有田に来ました。
先入観を持たないことで、日本や有田との初めての出会いを吸収しやすくするためです。
彼がまず行ったことは、有田焼の関係者たちと出会いヒアリングすること。
ヒアリングを通してデザインのインスピレーションを得ていきました。
当初の計画では、1ヶ月間のリサーチ後にデザインを作る予定でしたが、最初の1週間でアイデアが決定。
そのアイデアをプレゼンしたことをきっかけに、まるぶんとタッグを組み開発に向けて動き出すことになりました。
このデザインコンセプトの開発にはかなりの時間が必要になることが分かり、
佐賀県窯業技術センターや窯元の協力を得ながら製品化を進めていきました。
まず最初にドローイングデザインができたのはカラフェ。
日本ではあまり馴染みがない呼び方ですが、ピッチャーや水差しと言えばイメージがわきやすいでしょうか。
タイメンは有田焼の伝統的加飾の一つである、「鎬(しのぎ)」からインスピレーションを得たデザインを作りました。
3ヶ月という期間は開発には大変短く、気づけば暑い夏も過ぎ、あっという間に帰国の時が迫っていました。
滞在中にカラフェと小さなカップのプロトタイプまでが完成しました。
帰国後もオランダ・ロッテルダムと有田とで密に連絡を取り合い、時にはタイメンが有田に来たり、有田からロッテルダムへプロトタイプを持ち込んだりしながら商品化を進めました。
タイメンのデザインは非常に繊細であり、細部に至る厚みや深さまでミリ単位の調整が行われました。
窯業技術センターの最新機器や最新3D技術を用いデザインを突き詰めながら、窯元でそのデザインを再現できるように新しい技法の考案や試作を行いました。
そしてついに、11種類の形状からなる「UTSUÀ」が誕生いたしました。
2019年4月には、イタリアの国際インテリア見本市ミラノサローネに出展致しました。
ヨーロッパはもちろん、世界各国から最先端のインテリアや雑貨が集まっていて、連日多くの人で賑わいました。その中でUTSUÀは、有田焼の高い技術と歴史、デザイン性の融合を高く評価されました。
そこでの評価を元にさらに磨きをかけ、2019年の8月―
タイメンが有田に来てから2年の月日を経て、ようやく商品となり販売を開始いたしました。
ブランド名「UTSUÀ」―
「器(うつわ)」を世界の人たちが発音しやすいようにUTSUÀと表記しました。
日本語で「器」は食器のほかに、寛容さや謙虚さといった人間の大きさを示す意味にも使われます。
和・洋問わず、すべての料理を受け入れる―そんな思いが込められています。
新進気鋭のヨーロッパのデザイナーと、400年の伝統を持つ有田焼のコラボレーション。
ぜひ、みなさまのテーブルに加えてみませんか。